物流会社の新規事業は、「遠いもの」と組み合わせる

物流会社や作業請負会社が新規事業を考えるとき、私はいつも少し難しさを感じます。
それは、私たちの業界には、他社が簡単には真似できないような「圧倒的な技術革新」を生み出す機会が、それほど多くないからです。

もちろん、近年では自動運転や倉庫の自動化、ロボットなど、大きな技術変化が起きています。

しかし、長い目で振り返ったとき、物流のあり方そのものを大きく変えた技術革新は、そう何度も起きているわけではありません。

たとえばコンテナです。
いまとなっては、貨物をコンテナに入れて運ぶことは当たり前です。
しかし、荷物を一つの規格化された箱に入れ、そのまま船、鉄道、トラックへと載せ替えるという仕組みは、物流の生産性を大きく変えました。

振り返ってみれば、「箱を共通化しただけ」とも言えます。
けれど、その「だけ」が世界の物流を変えました。

では、私たち物流会社や作業請負会社が、新しい事業をつくるためには、次のコンテナのような発明を待たなければならないのでしょうか。

私は、そうではないと思っています。

むしろ大切なのは、

「新しい技術を生み出すこと」ではなく、「すでにあるものを、遠いものと組み合わせること」

ではないかと思うのです。

近いもの同士では、あまり新しくならない

新規事業を考えるとき、多くの会社は自社の周辺から発想します。

運送会社であれば、運送に近いこと。
倉庫会社であれば、保管に近いこと。
作業請負会社であれば、いま請け負っている仕事に近いこと。

もちろん、それが悪いわけではありません。
既存顧客や設備、人員を活用できますし、事業化もしやすい。

ただ、近いもの同士を組み合わせても、どうしても既存事業の延長線上になりがちです。

一方で、自分たちとは少し遠い業界へ行くと、状況が変わります。

自分たちにとっては何でもないことが、相手にとっては非常に価値のある能力になるからです。

IT企業から見ると、「人が動く」ことは特殊な能力になる

たとえば、ITサービスとの組み合わせです。

IT企業は、システムを開発したり、データを集めたり、分析したり、自動化したりすることには非常に長けています。

しかし、サービスの途中で物理的な作業が必要になると、急に難易度が上がります。
マンパワーがないのです。

現地へ行く。
モノを回収する。
現物を確認する。
大量のモノを仕分けする。
全国の拠点で同じ作業をする。
決められた手順で、人が処理する。

私たち物流会社や作業請負会社にとっては、どれも珍しいことではありません。
むしろ、普段からやっていることです。

ところがITサービスの世界から見ると、こうした「物理的な作業を代行してくれる機能」は、自分達にはない能力なのです。

つまり、こちらにとっての「普通」が、相手の世界では「強み」になるのです。

新しい技術を開発したわけではありません。
いつもやっていることを、別の場所へ持っていっただけです。

それでも、新しいサービスになり得ます。

組み合わせると、価格の常識まで変わる

面白いのは、サービス内容だけではありません。
「遠いもの」と組み合わせることで、価格の考え方まで変わることがあります。

ITサービスでは、どうしても開発コストがかかります。
エンジニアの単価は高く、保守費用も高額です。
しかも、利益率の考え方もずいぶん違います。

しかし、物流会社・作業代行会社からすると、その見方は変わります。

高額なシステム機能を作るくらいならば、人の作業でそこを埋めてしまえばいいのです。

IT企業から見ると、「人が処理する」というのは非効率に見えるかもしれません。
でも、私たちからすれば、作業を標準化し、必要な人数を配置し、一定の生産性を確保して利益を出す。これは、昔からやってきた仕事です。

そのため、ITの世界では「高くて実現できない」と考えられていたものが、人による作業と組み合わせることで、現実的な価格になることがあります。

これも立派なイノベーションではないでしょうか。

遠くへ行くほど、自分たちの「当たり前」が見えてくる

生物の進化でも、多様性が大きいほど、環境変化に適応する可能性は高まります。

新規事業も少し似ていると思っています。
自分たちと似た会社、自分たちと似た業界だけを見ていると、同じような発想しか出てきません。

そこで、あえて遠いところを見てみましょう。

物流とIT。物流と金融。物流と不動産。物流と医療。物流と行政。
作業請負とSaaS。作業請負とAI。

組み合わせる相手が遠ければ遠いほど、「なぜそんなことができるのですか」と言われる可能性が高くなります。
でも、こちらからすれば、「いや、普段からやっていますよ」ということだったりします。

ここに面白さがあります。

新規事業とは、自分たちが輝く場所を探すこと

新規事業というと、どうしても「いままでにないものをつくらなければ」と考えてしまいます。
新技術、新しいビジネスモデル、誰も思いつかなかったアイデア。

もちろん、それができれば素晴らしいことです。

しかし、物流会社や作業請負会社が、技術ベンチャーと同じ土俵で勝負する必要はないと思っています。
むしろ、自分たちがすでに持っているものをよく見る。

人を動かす力。現場を管理する力。物を管理する力大量の作業を標準化する力。
例外が起きても、最後は人間が何とかする力。

それらを必要としている「遠い業界」を探してみてください。

新規事業を考えるとき、「自分たちには、どんな新しいことができるだろう」と考えるだけではなく、
「自分たちが普段やっていることを、珍しいと思ってくれるのは誰だろう」と考えてみる。

そして、自分たちの業界から少し遠くへ行ってみる。

そこには、「そんなことも、やってもらえるんですか」と言ってくれる人たちがいるかもしれません。

自分たちの能力が最も輝く場所は、自分たちの業界の中とは限りません。
私は、物流会社や作業請負会社の新規事業には、そんな探し方があると思っています。