労働集約的だからこそ成功できる新規事業とは?

「強みがない」のは思い込みに過ぎない

倉庫業や作業請負業の経営者と話していると、いつも人手不足の話になります。
労働集約的な仕事なので、事業を拡大していくためには、拠点と人を増やす必要がある。けれども、今までのように簡単には人の採用ができなくなった。

だからこそ、人手を増やさずに利益を上げられるビジネスを、多くの経営者が求めています。

しかし…、自社には「技術がない」「ノウハウもない」「強みと呼べるものなんて何もない」――

その思い込みは、今すぐに捨て去るべきです。

強みがないからこそ、成功しやすい新規事業もあるのです。

強みがないなら、強みを生み出せばいい。
しかも、大それたスキルや技術ではなく、「他人が面倒だと感じてやらないこと」を、コツコツ地道に積み上げることで

誰にでもできるが、誰もやらないこと。
そこにこそ、事業の核が眠っているのです。

「変な趣味」や「やらざるを得ないこと」がヒントになる

私は小さい頃、野球が大好きでした。
プレイすることも楽しかったのですが、それ以上に夢中になったのが、過去の甲子園出場校や選手、記録などを調べることでした。1日中、何時間でもそれを調べ続けていられる。周囲からは「変わってるね」と言われるような行動でしたが、自分にとってはそれが最高の時間だったのです。

あなたの会社にも、そんな「他社には理解されないけれど、夢中で取り組めること」「普段の仕事のなかでコツコツとやらざるを得ないこと」はありませんか?

普通の会社がやろうとすると苦痛になるけれど、あなたの会社では普通なこと。むしろ楽しさすら感じること。
そこにこそ、あなたの会社の“原石”となるタネがあります。

地味な日常業務からSaaSビジネスを生んだ会社

このような強みを活かして、地道な業務から見事に新規事業を立ち上げた会社があります。
紙の書類をスキャンして画像データに変換する請負業務を主とする、ある中小企業――仮にU社としましょう。

U社の主な営業先は、行政機関や大学、市町村、外郭団体などです。
彼らは入札によって業務を受注しており、その入札情報はWebサイトに掲載されるものもあれば、庁舎の掲示板に貼り出されるだけのものもあります。とくに掲示板にしか出ない案件は競合が少ないため、U社にとっては重要な営業ターゲットです。
そのため、営業担当者は日々、様々な自治体のWebサイトをチェックしたり、直接足を運んで庁舎の掲示板を確認していたのです。

「この情報、他社も欲しいのでは?」という気づき

ある日、担当者がふと思いました。
「この入札情報って、自分たちだけでなく、他の会社も絶対に欲しいはずだ」と。

そこで彼らは、地道に集めていた入札情報をインターネット上で検索できるサービスとして提供することにしたのです。

自社の事業領域であるスキャニング業務だけでなく、建設、資材調達、ソフトウェア開発といった他分野の入札情報もカバーできるようにしました。
収集する情報の種類を増やしても、情報を収集するのにかかる労力はあまり変わりません。少ない追加労力より広い分野に展開できるのです。

その結果、このサービスは爆発的にユーザーを獲得し、U社にとっては「真水の利益」を生むSaaSビジネスに成長したのです。

地味で手間のかかる仕事こそ、他社には真似できない資産になる

この事例の本質は、自社にとっては「日常業務」だった活動が、他社にとっては「面倒すぎてやっていられない」ことだった点です。

だからこそ価値があった。そして、地味で目立たないがゆえに、大手企業は参入してきません。

同業者が唯一の競合になり得ますが、彼らが気づいたときにはすでにユーザーが多数ついており、「自分たちで同じことをやるよりも、そのサービスを使った方が合理的」という状況になっています。
追いつくには数年かかる。その間の機会損失を考えれば、参入は現実的ではなくなります。

労働集約的だからこそ、真似のできないデータ活用ビジネスができる

この事例が示すように、持たざる者であっても、新規事業を立ち上げることは十分に可能です

そしてその方法は、突飛なアイデアでも、最新テクノロジーでもなく、自社の既存活動をベースとした「地味で継続的な努力」なのです。

特に、日常業務の中で自然と蓄積されるデータには大きな価値があります

労働集約的な手段を通じて得たものこそ、ベンチャー企業には手に入らないデータ資産なのです。

それを活用することで、低コストで、ニッチだけれど確実な需要をとらえたサービスを生み出すことができます。
こうしたサービスにはリスクも少なく、収益性も高いのです。

成功の鍵は、「やってて苦にならないこと」をビジネスに変える視点

強みは、初めからある必要はありません。
苦に感じず自然と続けていけること、他人が面倒で手を出さないことを、時間をかけてコツコツ積み重ねることによって、自ら生み出すことができます。

そして、地道に続けてきた活動が、いつしか価値あるデータとなり、他者にとって必要不可欠なサービスへと姿を変えるのです。

持たざる者だからこそ見える視点、気づけるニーズ、そして積み重ねられる努力が、新規事業を成功に導く。
何も持たないからといって、諦める理由にはなりません。むしろ、あなたのその「空白」こそが、最大の可能性なのです。

そう気がついたら、あなたの会社が自然と集めている情報に目を向けてみてください。
その情報を集めるのに多くの従業員が苦労しているはずですが、きっと、未来に繋がる資産として輝いて見えるはずです。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です