誰も教えてくれない、「強み」のつくり方

~中小企業がやってはいけない「強み探し」とは~
「新規事業に挑戦したい」
「新しい取引先を見つけたい」
こんな話になると、必ずと言っていいほど「自社の強みを活かして」という言葉が出てきます。
けれど、ここで多くの中小企業が壁にぶつかります。
「そもそも、ウチに“強み”なんてあるのか?」
「強みって、どんなことを指すんだ?」
「強みを活かすって、どういう意味なんだ?」
この「強み」という言葉、簡単に使われすぎていて、実はとてもあいまいなものです。
多くのビジネス書には、「自社の強みを見極め、活かしなさい」と書いてあります。
ドラッカーの言葉を借りれば、「強みとは卓越性の源泉」だと言われたりもします。
もちろん、間違いではありません。
でも、現場を知る立場からすれば、「それだけじゃ足りない」と感じずにはいられません。
「強み」は絶対的なものではない
結論から言いましょう。
「強み」は、絶対的なものではなく、相対的なものです。
つまり、強みというのは「自社が何を持っているか」だけで決まるのではなく、
「誰と比べたときに」「誰にとって」価値があるかによって変わるということです。
極端な話ですが、
A社にとって価値のない技術も、B社にとっては喉から手が出るほどほしいものかもしれません。
C社と比べたら見劣りするけれど、D社と比べたら抜群に優れている、というケースも珍しくありません。
この「相対性」の視点を持たずに、「強みを新たに作ろう」としてしまうと、
中小企業は、大手企業や資金力のある企業と“正面から戦う”という、非常に分の悪い勝負に突入してしまうことになるのです。
私の実体験:強みが無力化された瞬間
私は、倉庫会社で「書類の属性データを作成するサービス」を立ち上げた経験があります。
これは、紙の書類を見て「日付」「発行元」「取引内容」などの情報を抜き出し、整理するというもの。
単純作業に見えるかもしれませんが、実際には非常に手間がかかる業務です。
私たちは、普段は入庫・出庫に携わっているパート社員を教育して、文章を読み込まないと判別できないような属性もデータ化できるようにしました。
このサービスは、当初とても評価されました。
なぜなら、他の倉庫会社や作業請負会社は、そんな煩雑な仕事を請け負わなかったからです。
つまり、「面倒だけれども大切な業務を丁寧にやる」という私たちの姿勢が、「強み」になっていたのです。
しかし、ある日、思いがけないライバルが現れました。
それは、生成AIを武器にしたITベンチャー企業でした。
彼らは、紙の書類をスキャニングしてPDFにしさえすれば、瞬時に属性データを抽出してしまう。
処理精度はイマイチなところがありましたが、スピードはこちらの手作業とは比べものにならない。
当然、コストも安い。
「これはマズい」と思いました。
実際、お客様からも「AIの方が早くて安いから、乗り換えようかと考えている」という声が上がりました。
いままでは、「他の作業会社」と比較されていた私たちが、
突然「テクノロジーを駆使したAI企業」と比較されることになったのです。
この瞬間、私たちの「強み」は、一気に色あせてしまいました。
でも、本当にそうだったのか?
しばらくして、私たちは冷静に立ち止まって、サービスの本質を見つめ直しました。
生成AIは確かに優れていました。
けれど、彼らが得意とするのは、「整った書類」「整ったフォーマット」に対しての処理です。
私たちの現場には、
・破れかけた伝票
・手書きの走り書き
・折れ曲がった紙束
・ページ順すらバラバラなファイル
そんな“リアルな混沌”が日常的にあります。
AIが困るようなこうした現場でも、私たちは対応してきた。
「この書類、同じクリアポケットに入っているけれど、別の書類だよね?」「この書類は、タイトルはこうだけれど分類は別にするべきだよね?」と、現場スタッフがその場で判断し、お客様とやりとりしながら仕分けていく。
それこそが、私たちの“無意識の強み”だったのです。
つまり、AIと同じ土俵で戦おうとするから負けそうになった。
でも、私たちの土俵は、そもそも“違う場所”にあったんです。
「強み」を武器に変える3つの視点
この経験から、私は「強みを見つける」ための3つの視点を意識するようになりました。
① 自社にとって“当たり前”を疑う
日々の業務で「こんなの普通でしょ?」と思っていることほど、他社にはできないことだったりします。
あえて棚卸してみましょう。「これって他社もやってる?」と聞いてみるだけで、意外な発見があるはずです。
② 誰と比べるかを自分で選ぶ
比べられる相手を間違えると、“強み”が一瞬で“弱み”になります。
だからこそ、自分たちが勝てる土俵=比較対象を見極めることが大切です。
③ 誰にとって価値があるかを明確にする
「誰の役に立つのか?」が見えていないと、強みは武器になりません。
大企業全体に通用しなくても、一部の困っている顧客にとっては、絶対的な価値になるかもしれないのです。
まとめ:強みは、探すものではなく、気づくもの
「強みがない」と悩んでいる方に、私はこう伝えたいです。
強みは“ない”のではなく、“気づいていない”だけです。
それは、きっとすでに目の前にある。
毎日、当たり前のようにやっているあの作業かもしれない。
現場のスタッフが、無意識に対応しているあの一手間かもしれない。
強みを「つくろう」とするのではなく、「見出す」ものです。
そして、自社の強みが“最も輝く場所”を探しに行きましょう。
それこそが、あなたの会社の「次の一手」を切り拓くヒントになるはずです。
この文章を読むと「当たり前だよね」と思うかもしれません。
でも、これは非常に重要なことです。