【完全版】運送業の原価把握-車両単位だけでは意味がない「パズルの解き方」

運送業の経営において、「原価計算が大切だ」と耳にしない日はありません。
国交省のガイドラインや各地のトラック協会からの情報にも、具体的な計算の仕方が公開されています。
しかし…
「うちは1台の車両で多回転運行している」
「曜日によって違う案件の仕事をしている」
と、いざ取り組もうとすると悩みが出てきて、手が止まってしまう経営者が多いのも事実です。
2028年までには施行される「5年ごとの許可更新制」では、債務超過や連続赤字などの財務状況が厳しく問われます。
もはや「どんぶり勘定」は、廃業リスクそのものです。
※許可更新制の内容については、こちらの記事をご覧ください →【2028年までに施行予定】運送業の免許更新制度とは?
本記事では、詳細な経費項目をすべて洗い出した上で、
それらを「時間」と「距離」という2つのモノサシに集約し、どんなに複雑な案件でも採算を弾き出せる実務手法を解説します。
原価を構成する「詳細項目」を仕分けする
まずは、自社の決算書や試算表から、1台あたりのコストを以下の3つのカテゴリーで再整理してください。
① 走行変動費(走ったら発生するコスト)
- 燃料費:軽油代
- 油脂・尿素代:エンジンオイル、アドブルー等(燃料費の約3〜5%)
- タイヤ代:年間購入額を走行距離で按分
- 高速道路利用料
② 車両固定費(走らなくとも発生するコスト)
- ドライバー人件費:給与、残業代、賞与引当、社会保険料(会社負担分)
- 車検・整備費:年間の車検代、法定点検費用、突発的な修理費の平均
- 租税公課:自動車税、重量税
- 保険料:自賠責保険、任意保険(車両・対人対物)
- 減価償却費:車両の購入価格の月割分
③ 一般管理費(会社を維持するために全車両で分担するコスト)
- 管理部門人件費:運行管理者、事務員、経営者の役員報酬
- 事務所関連:事務所賃料、水道光熱費、固定資産税
- 通信・IT費:デジタコ利用料、点呼システム、電話代、ネット代
2. 実務のカギ:コストを「時間」と「距離」の単価に変換する
運送実務は「午前と午後で荷主が違う」「積み合わせをする」など複雑です。
これを解くために、上記で整理したコストを「タイム単価(時間)」と「キロ単価(距離)」の2つに変換します。
【計算例】4tトラック(月22日、1日10時間稼働、月間5,000km走行の場合)
A. タイム単価(車両固定費+管理費を「時間」で割る)
- 車両固定費:530,000円(人件費、車検、税、保険等すべて込)
- 一般管理費:50,000円(事務所代、運行管理者給与等の按分)
- 合計:580,000円 / 月
- タイム単価 = 580,000円 ÷ (22日 × 10時間) = 2,636円 / 1時間
※実務上の意味: このトラックは、動いていても止まっていても、1時間ごとに2,636円(1分あたり約44円)の経費を消費しています。
B. キロ単価(変動費を「距離」で割る)
- 燃料費+油脂・尿素代:32円 / 1km(燃費5km/L、150円/L、尿素代込)
- タイヤ代等:3円 / 1km
- キロ単価 = 35円 / 1km
※実務上の意味: このトラックは、1km走ると35円の経費を消費しています。
これらの数字が「標準原価」です。
「標準原価」はあくまで採算を管理するための指標です。
そのため、毎回厳密に捉える必要はなく、定期的に計算しなおして基準値を変えていけばよいでしょう。
3. 【実践】パズルのように案件別の原価を組み立てる
この「タイム単価 2,636円」と「キロ単価 35円」さえ決まれば、どんな複雑な運行でも採算が見えます。
案件例:午前中に「荷主A」の配送、午後に「荷主B」の配送を行う日
ある日の運行実績が以下の通りだったとします。
- 荷主A(午前):拘束4時間、走行50km、高速代1,000円
- 荷主B(午後):拘束5時間、走行80km、高速代なし
- 付随作業(点呼・洗車等):1時間
荷主Aの原価計算
- 時間コスト:4時間 × 2,636円 = 10,544円
- 距離コスト:50km × 35円 = 1,750円
- 高速代:1,000円
- 合計原価:13,294円
荷主Bの原価計算
- 時間コスト:5時間 × 2,636円 = 13,180円
- 距離コスト:80km × 35円 = 2,800円
- 合計原価:15,980円
ここで、荷主Aの運賃が12,000円、荷主Bの運賃が20,000円だった場合、経営者は「荷主Aは走るほど赤字であり、荷主Bの利益を食いつぶしている」という事実を、1円単位の根拠を持って把握できるのです。
4. なぜ「待機時間」が経営を圧迫するのか
この計算式を使うと、荷主都合による「待機時間」の恐ろしさが見えてきます。
もし荷主Bで「2時間の積み待ち」が発生し、拘束時間が5時間から7時間に延びたとします。
- 増える原価:2時間 × 2,636円 = 5,272円の追加コスト
燃料も使わずエンジンを切って待っていても、ドライバーの人件費、運行管理者の給与、事務所の家賃、車両の保険料は1分たりとも止まらずに発生しています。
この5,272円の持ち出しを荷主に請求できなければ、その分だけ会社の財務状況は悪化し、将来の許可更新を危うくすることになります。
5. 正確な原価把握こそが「攻め」の判断基準
原価計算は、過去を振り返るためだけのものではありません。
「タイム単価」と「キロ単価」を把握することで、以下のような「攻め」の経営判断が可能になります。
- 見積りの即答:「往復で何時間、何キロか」を聞くだけで、損益分岐点が瞬時にわかる。(儲からない案件に手を出さずに済む)
- 不採算案件の特定:なんとなく受けていた古い案件が、今のコストに見合っているか峻別できる。(儲かっていない案件がすぐにわかる)
- 新規開拓の指針:自社の原価基準を満たさない案件を断る勇気が持てる。
許可更新制という新たなハードルを越え、持続可能な運送経営を実現するために。
まずは、直近の車検・整備費、保険料、そして運行管理者を含む間接部門の経費をすべて洗い出し、自社の「タイム単価」を算出することから始めてください。
その数字こそが、荷主との交渉における最大の武器であり、自社を守る盾となります。
.png)

-300x169.png)