新規事業が成功しない最大の理由――それは「敵が社内にいる」からです。


なぜ、せっかくの新規事業が報われないのか?

新規事業に取り組んでいるのに、一向に結果が出ない。
それどころか、最初は意気込んでいたメンバーの士気が、月を追うごとに下がっていく。

こんな状況に、心当たりはないでしょうか?

  • 「新規事業チームをつくったのに、全然前に進んでいない」
  • 「担当者から、最近あまり前向きな声が出てこない」
  • 「気づいたら、みんな本業のほうに意識が戻っている」

こうした現象は、担当者の努力不足でも、アイデアの質が低いからでもありません。
もっと構造的な「理由」があります。


新規事業は、既存事業によって「じわじわ潰される」

新規事業が失敗する最大の理由。
それは一言でいえば、

既存事業によって潰されるから

です。

会社にとって、「いまこの瞬間」にお金を生み出しているのは既存事業です。
物流会社であれば、日々の配車・輸送・倉庫オペレーション。
作業請負会社であれば、現場の人員手配と作業の遂行。

当然、ヒト・モノ・カネといった経営資源は、まず既存事業に厚く配分されます。

そして評価の物差しも、ついこうなりがちです。

  • 「どれだけ売上を上げているか」
  • 「どれだけ利益を出しているか」
  • 「原価をどれだけ削減できたか」

つまり、“今日の利益” を基準に、事業の価値が判断されるのです。


私自身も、物流会社の中で「潰される新規事業」を経験した

私も、物流会社の中で新規事業立ち上げを担当するなかで、まさにこの構図を味わいました。

  • とにかく、人材が供給されない
  • それどころか、本業で「ちょっと持て余している人材」が回されてくる
  • 新しい取り組みよりも、「今すぐのトラブル対応」が常に優先される

こんな状態で、新規事業を成功に導くのは、正直なところかなり険しい道のりです。

担当メンバーも、最初は前向きでも、次第にこう思い始めます。

「これって、本気で成功させるつもりあるのかな?」
「この会社で新しいことをやるのは無理なんじゃないか?」

さらに追い打ちをかけるのが、「評価のされ方」です。


チャレンジした人ほど、評価が下がるスパイラル

多くの会社では、新規事業も既存事業と同じ物差しで評価されがちです。

  • 「まだ赤字だよね?」
  • 「何年やっても利益が出ていない」
  • 「結局、既存の××部門のほうが数字を出している」

しかし、新規事業は構造的にみても、短期的には赤字・投資先行になるのが当然 です。

にもかかわらず、既存事業と同じ「利益基準」で評価されると、どうなるか。

  • 新規事業を担当した人ほど、評価が低くなる
  • 数字を持っている既存事業のマネージャーが、相対的に高く評価される
  • 「挑戦した人間が損をする」という空気が、社内に広がる

こうなると、担当者の中に被害者意識が芽生えます。

「頑張っても報われない」
「どうせ評価されないなら、やるだけ無駄だ」

その結果、有望なメンバーほど、「隣の青い芝」へ転職していくのです。

皆さんに気づいてほしいのは、こういう状態は「あなたの会社だけに特別に」起きていることではない、ということです。
根本的なところにボトルネックがあるから、どこの会社にも起きているのです。


組織は「今の利益」を優先し、将来のリスクに目をつぶる

要するに、多くの会社では、

既存事業が優先される
今の利益を守ることが、将来のリスクよりも優先される

という意思決定が、暗黙のうちに行われてしまいます。

  • 「今月の数字」を守るために、新規事業に回すはずだった人を本業に戻す
  • 「今のクライアント対応」を優先して、新しいサービス開発を後回しにする

こうした積み重ねによって、組織は徐々に

  • 刹那主義(目先主義)
  • 現状維持バイアス

に支配されていきます。

そして何年か経ったあとで、こんな事態に陥るのです。

「新規事業に取り組んできたつもりだけれど、一向に結果が出ない」
「気づいたら市場環境が変わっていて、本業が縮小し始めた」
「大手や新興プレイヤーに仕事を取られていた」


では、この悪循環をどう断ち切るか?

では、こうした「既存事業が新規事業を潰してしまう構造」を、どうやって回避すればよいのでしょうか。

答えは、シンプルです。

徹底して、「本業・既存事業から切り離す」こと

です。

ポイントは、「何を」「どこまで」切り離すのか。
ここを曖昧にしないことです。


① 組織を切り離す 〜 社長直轄にする

まず最初に切り離すべきは、組織です。

新規事業は、既存の営業部や事業部の「下」に置いてはいけません。
部署の中に“新規事業担当”のようなポジションをつくると、ほぼ間違いなく本業の事情に振り回されます。

  • 本業が忙しくなると、人が引き抜かれる
  • 部門長の評価が既存事業の数字で決まるため、新規事業は後回しにされる
  • 部署内の余り人材の受け皿にされる

これを避けるためには、

  • 社長直轄のプロジェクト
  • もしくは、既存組織とは別の「社長直下チーム」

として位置づけることが重要です。

そして、メンバーの人選は社長が自ら関与するべきです。
「余った人材を集めた寄せ集め部隊」がうまくいくことは、まずありません。


② 予算を切り離す 〜 「安心して使っていいお金」を明示する

次に切り離すべきは、予算です。

新規事業チームが最も不安を感じるのは、

「どこまでお金を使ってよいのかがわからない」

という状態です。

  • テストマーケティングにいくら使ってよいのか
  • 顧客ヒアリングのための出張費はどこまで許されるのか
  • 試作システムやツールに対して、どこまで投資してよいのか

これが曖昧だと、メンバーは常にブレーキを踏みながら走ることになります。

ですので、

  • 新規事業専用の予算枠を、既存事業と切り離して確保する
  • 「この枠内であれば、社長承認のもと、安心して使ってよい」と明言する

ことが重要です。

「どうせあとで経理に細かく突っ込まれるんだろうな…」という空気を消し、
安心して試せる環境を用意してあげてください。


③ 意思決定を切り離す 〜 本業と同じ手続きを求めない

3つ目は、意思決定のプロセスを切り離すことです。

新規事業は、わからないことだらけです。
既存事業のように、「過去データ」「前例」「社内ルール」に基づいて判断することはできません。

にもかかわらず、

  • 稟議書や説明資料のフォーマットは既存事業と同じ
  • 投資判断の基準も、既存事業と同じROI
  • 稟議の承認ルートも、通常案件と同じフロー

という状態では、まずスピードが出ません。

新規事業に必要なのは、

  • 小さく試す
  • 早く学ぶ
  • ダメなら早くやめる/良ければ広げる

という「試行錯誤のサイクル」です。

そのためには、

  • 承認フローを簡略化する
  • 小額の実験であれば、担当責任者と社長の二者で決められるようにする
  • 事前の完璧な計画より、「やりながら考える」ことを前提にする
  • 社内説明用の資料は、簡素なものでも構わない

といった形で、本業とは別のルールを設ける必要があります。


④ 評価を切り離す 〜 利益ではなく、「経験」と「売上」で見る

最後に一番重要なのが、評価の物差しを切り離すことです。

新規事業において、「利益」は最初の段階では二の次です。

むしろ重視すべきは、次のようなポイントです。

  • 顧客の生の声をどれだけ集められたか
  • 仮説検証をどれだけ回せたか
  • 新しい売上の“タネ”をどれだけつくれたか

ざっくり言えば、

経験が増えること
売上が増えること
(利益は、その次のフェーズ)

を評価するべきなのです。

具体的には、

  • 最初の1〜2年は、「利益」ではなく「検証件数」「接点を持った顧客数」「テストしたサービス案の数」などをKPIにする
  • ある程度モデルが見えてきてから、初めて「利益」をKPIに組み込む
  • 担当者の人事評価も、「挑戦したこと」「社内に持ち込んだ学び」などをきちんと反映する

こうすることで、

  • 「挑戦した人ほど損をする」状態から
  • 「挑戦した人ほど経験値が貯まり、評価される」状態へ

組織の空気を変えていくことができます。


まとめ:新規事業の一番の敵は、「外」ではなく「内側」にいる

新規事業が失敗する最大の理由は、実力のなさでも、ライバル会社でも、景気でも、運の悪さでもありません。

既存事業が優先される仕組みの中で、
新規事業がじわじわと潰されていくこと

です。

その構造を変えるためには、

  1. 組織を切り離す(社長直轄・独立チーム)
  2. 予算を切り離す(安心して使える専用枠)
  3. 意思決定を切り離す(本業とは別のルール・スピード重視)
  4. 評価を切り離す(利益ではなく、経験と売上をまず評価)

この4つを、意識的に設計する必要があります。

もし、あなたの会社で新規事業の動きが鈍くなっていると感じられるなら、
担当者の能力やアイデアの前に、「仕組みのほうに問題がないか?」 を一度疑ってみてください。

新規事業は、「正しい人」と「正しい仕組み」が揃えば、中小の物流会社・作業請負会社・倉庫会社であっても、十分に成果を出すことができます。

その仕組みづくり、一緒にやってみませんか?