敢えて“ひと手間かけさせる”サービスづくり ~自在感を使いこなす~

子どものころの“ひと手間”が、楽しかった理由
あなたにも、こんな経験があるのではないでしょうか?
子どものころ、ゼンマイ式のミニカー「チョロQ」でよく遊んでいました。
車を手に取って後ろに引くと、ゼンマイが巻かれ、手を離した瞬間に勢いよく前に走り出す──それだけでも十分に楽しいものでした。
でも、楽しさはそれだけではありませんでした。
チョロQに色を塗ったり、シールを貼ったりして、自分だけのオリジナルに仕上げたことはありませんか?
何か特別な機能を加えたわけではないのに、「自分でつくった」という感覚が、そのミニカーに対する愛着をより一層深めてくれたのです。
友達と見せ合い、「それ、いいじゃん!」なんて言いながら、誇らしげに自分のチョロQを走らせていた、そんな場面を覚えています。
労力と満足感は、必ずしも反比例しません
家具業界では、IKEAがこの「ひと手間」の価値を活用している代表例です。
IKEAの家具は、完成品ではなく、自分で組み立てる前提で販売されています。
確かに、これは手間がかかります。しかし、「自分で組み立てた」というプロセスを経たことで、多くの方がIKEAの家具に対して強い愛着を持つようになるのです。
白いスニーカーを、自分の手でカスタマイズする人もいます。スプレーで彩色したり、手描きで模様を加えたり、パーツをつけたり。
こうした行動もまた、自分だけの特別な一足をつくる楽しさに満ちています。
共通しているのは、「苦労した分だけ、満足感も大きくなる」という人間の特性です。
キーワードは「自在感」
心理学の世界では、人が何かに関与・努力したとき、その対象に対する評価が高まる現象が知られています。
行動経済学ではこれを「エフォート・ジャスティフィケーション(努力の正当化)」と呼びます。自分が苦労して得たものほど、価値を感じやすくなるのです。
そして、今回のテーマで特に注目したいのが「自在感」という感覚です。
- 自分の意思で選べる
- 自分で工夫できる
- 自分なりのやり方を取り入れられる
このように“余白”が残されたサービスや商品には、利用者がより深く関与し、強い愛着を持つようになります。
すべてをやってあげない勇気
私たちは、つい「親切=すべてをやってあげること」と考えてしまいがちです。
しかし、それは時として、ユーザーを“受け身”にさせてしまいます。
本当に記憶に残る体験、心を動かす体験というのは、ユーザー自身が“ひと手間”かけたときにこそ生まれるのではないでしょうか。
もちろん、手間がかかりすぎると逆効果ですし、選択肢が多すぎても困ってしまいます。
だからこそ、サービス提供側は「ちょうどいい手間」を設計しておくことが大切なのです。
- 「ここはあなたの自由にしてください」と差し出された余白
- 「ここで少し迷ってください」と意図的に設けられた分岐点
- 「ここはあなたの手で完成させてください」と託された仕上げの一歩
これらはすべて、ユーザーに“自在感”を与える仕掛けとなります。
情緒に訴える設計が、愛着を生み出す
近年、多くのサービスが「効率」「手軽さ」「自動化」に重点を置いています。
これ自体は間違いではありませんが、もし「ファン」をつくるサービスを目指すのであれば、「情緒的な手ごたえ」を意識することが欠かせません。
たとえば、こんな工夫が考えられます。
- 簡単なパーツの組み合わせで、自分だけの構成ができるサービス
- 質問の流れを選べて、自分に合った体験ができる導線設計
- 注文時に、ひとつだけカスタマイズできる自由度
- ユーザーの手で“完成”させる最後のアクション
こうした設計があることで、「これは自分がつくった」「これは自分に合っている」と感じられるようになり、サービスへの愛着が自然と生まれます。
まとめ:合理性よりも、“関与感”で記憶に残す
サービスを設計するうえで、必ずしも100%の合理性を追い求める必要はありません。
むしろ、ほんの少しの“ひと手間”をあえて残すことで、ユーザーがそこに関与し、記憶に残し、愛着を持つ──そんな設計こそが、これからの時代に求められるのではないでしょうか。
次に新しいサービスを考えるときは、どうか「のりしろ」を意識してみてください。
ユーザーがそこに“自分らしさ”を見出すことで、
そのサービスは、きっと誰かの「特別な存在」になるはずです。
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