未来を変えるのは“今・ここ・自分”の積み重ねだけ 〜中小企業経営者に贈る、一瞬に懸ける力〜

先を読みすぎると、足元をすくわれる
ビジネスの現場では「先を見通す力が必要だ」「先手を打て」といった言葉をよく耳にします。
もちろん、将来を見据えて準備することは重要です。
しかし、私はあえてこうお伝えしたいのです。
「先を読みすぎてはいけません。遠くばかり見ていると、足元をすくわれます。」
この言葉は、私自身の過去の痛い経験に基づいています。
高校時代、私は野球部に所属していました。
3年生の夏の大会、くじ運に恵まれ、「5回戦までは勝ち進める」とチーム全体が気を緩めていたのです。
しかし、結果は初戦敗退。
梅雨の明ける前に、私たちの夏は終わりました。
あの時、「今この一戦」に集中できていなかったことが、最大の敗因だったのだと、今ならはっきりわかります。
中小企業経営にも通じる「一瞬」の重み
倉庫業・運送業・作業請負業など、現場主導で動く業種の経営者や役員の方にとって、日々の忙しさは想像を超えるものでしょう。
先の売上、来期の数字、取引先の動向、将来の事業維持・成長……先のことに目が行くのは当然です。
ですが、未来というのは「今」の延長線上にしかありません。
今、この瞬間の判断と行動の積み重ねが、未来を形づくるのです。
先を見すぎるあまり、「今」に集中できていない状態では、結果として未来さえ失われてしまいます。
「一球入魂」は、経営にも通じる
私が高校時代に叩き込まれた言葉の一つが「一球入魂」でした。
「一球入魂」は、単に一球一球に全力を尽くせ、というような浅い意味ではありません。
どんなに試合展開が不利でも、どんなに追い込まれていても、そういったことはすべて頭の中から外して、次の一球にすべてを懸けるという意味です。
この一球に集中して全力を尽くしたら、すぐにリセットして、次の一球にすべてを傾ける。
この精神は、経営にも通じるのではないでしょうか?
中小企業の経営は、まさにトーナメント戦です。一度の失敗で致命的な打撃を受けることもある。
だからこそ、「今この瞬間」に全力を尽くすことが重要です。
目の前の仕事に真摯に取り組み、今日の顧客の声に耳を傾け、社員の動きを丁寧に見る。
これこそが、未来を切り拓く力となるのです。
他人ではなく、自分に集中する
「今この瞬間に集中する」というのは、他人にではなく、自分自身に集中するということです。
人の評価や競合の動向など、自分の力ではどうにもできないことに意識を向けるよりも、自分ができることにフォーカスすることが重要です。
なぜならば、自分は変えられるけれど、他人は変えられないからです。
これは、事業戦略にも同じことが言えます。
他社が何をしているかに惑わされるより、自社が「今できること」に集中し、地道に取り組んでいく。
その姿勢こそが、やがて独自性を生み出し、競争力につながっていくのです。
古今東西の偉人も、「今」に集中せよと語る
「今この瞬間に集中する」ことの大切さは、本当にびっくりするくらい、時代や洋の東西を問わず、数多くの偉人たちが口を揃えて同じようなことを語ってきました。
ここでいくつか紹介しましょう。
- 「だから、明日のことまで思い煩うな。明日のことは明日が思い煩う。その日の苦労は、その日だけで十分である。」(マタイによる福音書)
- 「過去を追うな。未来を願うな。今なすべきことを、ただ正しく見て、それを実践せよ。」(ブッダ)
- 「過去も未来もあなたの手にはない。手にしているのは現在だけだ。それを正しく用いよ。」(ローマ皇帝 マルクス・アウレリウス)
- 「過去と未来に心を奪われるな。この瞬間だけが人生である。」(ゲーテ)
- 「あなたの時間は限られている。だから、他人の人生を生きてはいけない。」(スティーブ・ジョブズ)
- 「今を生きなければ、未来を生きることもできない。」(パウロ・コエーリョ)
日本にも根づく「今に生きる」という知恵
日本にも、「今この瞬間を大切にする」という価値観は根付いています。
禅の思想です。
修行とは特別な場所で行うものではなく、日常そのものが修行の場であるとされます。
道元はこう言っています。
「学道の人、まさに身心を放下して、仏法をならふべし。…只だ打坐するのみなり」
つまり、未来の成果や過去の反省にとらわれず、「この瞬間、この姿勢、この呼吸」に意識を置くことが、真の道なのだということです。
この考え方は、日々変化する経営環境の中で、一瞬一瞬に集中することの意義を再認識させてくれます。
経営者の「今」が会社の未来をつくる
経営とは、決して「特別な日」だけに行うものではありません。
日々の判断、日々の行動、日々の姿勢——それこそが会社の未来を形づくるのです。
多くの中小企業の経営者が悩みを抱えています。
売上、人材、資金繰り、競合との違い……そのすべてを一度に解決する魔法はありません。
ですが、「今、自分が何をすべきか」に真摯に向き合い、積み重ねていくことは、誰にでもできます。
そしてその積み重ねこそが、やがて会社の成長となり、未来の変化へとつながっていくのです。
最後に:足元を見て、前へ進もう
「遠くを見るな」と言っているわけではありません。
大切なのは、遠くを見すぎて「今この瞬間」を疎かにしないことです。
あなたの会社の未来を変える鍵は、今、目の前にあります。その瞬間瞬間の判断と行動が、未来をつくっていきます。
どうか、今のあなた自身の行動を信じて、足元を踏みしめながら、一歩ずつ前へ進んでいってください。
それこそが、誰にも真似できない「あなたの経営」の形になるのです。