吉川元春に学ぶ!不確実な市場を突破する「現場実行力」と組織の士気高揚術

戦略を実現する「現場の鬼」の役割

戦国大名シリーズ第10弾は、吉川元春です。
弟の小早川隆景が「戦略と知恵」の頭脳であったのに対し、元春は、その戦略を最前線で実現する「実行力」と「現場統率力」という、組織の心臓部を担いました。

新規事業を立ち上げる際、「完璧な戦略」があっても、現場が「難しい」「無理だ」と感じて動かなければ、その戦略は机上の空論で終わります。
また、新規事業においては、とにかく情報が少なくて仮説だらけ。
その仮説を検証して、解像度を上げていくためには、とにかく行動量を積み重ねることが大事です。

ところが、失敗を重ねると人の足は止まるもの。

元春の役割は、まさに「不確実性の高い新規開拓市場」において、組織を鼓舞して、目標達成までの行動量を捻出することでした。


不確実な市場への挑戦:山陰方面の「新規開拓」

隆景が瀬戸内海沿岸や外交を任されたのに対し、元春が任されたのは、常に敵対勢力が強く、山がちな「山陰方面」の新規開拓市場でした。

「ロジックが通じない」不確実な市場

元春の戦場である山陰地方は、尼子家が支配する地。
侵攻に成功しても、少しでも形成が怪しくなると、再び尼子派に寝返る国衆がたくさんいました。

また、月山富田城の戦いで尼子を解体した後も、再興軍が根強く抵抗し、最後まで厳しい抵抗が続く「不確実性が非常に高い市場」でした。
この新規市場では、情報が極めて少なく、戦略通りにいかない失敗が多発します。

  • 徹底した現場主義: 元春は、「戦略だけでは勝てない」ことを知っていました。彼は常に兵士と同じ最前線で戦い、その武勇と実行力で「毛利の鬼吉川」と呼ばれるほどの信頼と恐れを現場から獲得しました。

【経営のヒント】
新規事業の初期フェーズは、「戦略通りにいかない」ことの連続です。その際、トップが現場に降りて「泥をかぶる」実行力と、不確実性を乗り越えるための「現場の知恵と情熱」を引き出すリーダーシップが不可欠です。この「実行力」が新規事業には不可欠です。


現場の実行力:不確実性を突破する「推進力」と士気高揚術

新規事業は、情報を増やすことでしか成功に近づけません。

情報を増やすためには行動量を増やす必要がありますが、失敗を繰り返すと組織の足は止まってしまいます。
元春の最大の価値は、この「足が止まる瞬間」に、失敗をものともせずに前進する推進力を組織に提供した点にあります。

組織を一つにする「二つの信頼」:ついていける信念と、支えたい情

元春の「実行力」は、周囲のメンバーに能力への信頼人間性への共感の両方を植え付けました。

  • 「ついていける」信念の提供(能力への信頼): 元春は、自身の武勇清廉さをもって、組織に絶対的な規範を提供しました。リーダー自身が「誰よりも努力し、誰よりも成果を出す」という姿は、現場に「この人についていけば勝てる」という確信を与え、組織の士気を一瞬で高めます。
  • 「支えたい」情熱の喚起(献身性への共感): 彼は、あくまで本家を支える立場を貫き、生涯を通じて質素倹約を旨としました。この自己犠牲的な実直さは、部下に「私利私欲のないこの人を孤立させてはいけない」「この目標のためなら自分の力を捧げたい」という献身的な情熱を抱かせました。リーダーの謙虚で実直な姿勢が、組織全体に「一丸となって守り抜こう」という強い一体感を生むのです。

失敗を乗り越え「情報量」を稼ぐ推進力

新規事業の最前線である山陰方面の開拓において、元春は「新規事業の営業・推進の核」として機能しました。

  • 失敗を恐れぬ推進力: 尼子勢力との戦いでは、一時的な敗退や困難が繰り返されました。しかし、元春の不撓不屈の精神率先した突進力は、失敗を恐れて足が止まる組織の負の連鎖を断ち切りました。
  • 行動量=情報量の増加: 元春が前へ前へと推進し、敵と接触し続けた行動量こそが、隆景が戦略を練るために必要な「生きた情報」を毛利本陣にもたらしました。この絶え間ない情報供給によって、戦略がアップデートされ、いつしか成功に近づいていくというサイクルが生まれたのです。

【経営のヒント】 新規事業の現場には、失敗の痛みに耐え、組織の足が止まるのを防ぐ「推進力」を持つリーダーが必要です。吉川元春のように、情熱と規範で組織の心に火をつけ、「この人にならついていける」と思わせる現場のリーダーこそが、不確実性を突破し、成功に必要な情報量を稼ぎ出す最大の資産となるのです。


戦略(隆景)と実行(元春)の両輪

吉川元春の生涯は、「緻密な戦略を血肉に変える力」の重要性を示しています。

毛利家の成功は、知恵(隆景)実行(元春)の役割分担が完璧に機能したことに他なりません。

あなたの会社が、戦略を机上の空論に終わらせず、不確実な新規開拓市場を突破するためには、吉川元春のような情熱と規範、そして失敗をものともしない推進力を持つ「現場の実行責任者」が不可欠なのです。

次回は、 尼子家(経久・晴久)に学ぶ! を解説する予定です。