”表面的なニーズしか拾えない”症状からの脱し方

~「モックアップ」でサービスの本質を届ける技術~

「お客様のニーズを聞いてみたものの、なんだか表面的な意見ばかりで参考にならない――」

これは、新事業・新サービスの企画や開発に関わる多くの人が、少なからず直面する悩みではないでしょうか。
実際、「ニーズを聞く」という行為そのものが目的化してしまっているケースも多く、「何がほしいですか?」と聞けば、「今困っていること」「なんとなく便利そうなこと」が返ってくる。
しかし、本当に知りたいのは、表面的ではない本当の心の底にあるニーズであり、「その人すら気づいていない不満」や「言葉にしにくい欲求」のはずです。

インタビューでは見えてこない“本音”

かつて、私はある空きビルを改装し、レンタル収納スペース事業を立ち上げたことがあります。
スタート前には、近隣住民を集めて数回にわたるインタビューを実施しました。

「どんな用途で使いたいと思いますか?」という問いに返ってきたのは、多くが「タイヤや季節品の保管」「アウトドア用品の一時置き場」といったもの。
ファミリー層のごくまっとうな意見ばかりで、今にして思うと、聞かなくても分かることばかりでした。

私は「これでいける」と確信し、サービスをスタート。
しかし、実際に契約者と接する中で、思ってもみなかった“本音ニーズ”が見えてきたのです。

スペースの利用を検討する40代の主婦と話をしたときのこと。この方は、ブランドバッグやアクセサリーを大量に収納したいと申し出ました。
理由は、「夫に見せられないから」。
しかも、契約書や郵送物も“地味な封筒で置くってほしい”という徹底ぶり。

他の契約者にも聞いてみると、「家族に知られたくない趣味用品の保管」「家に置けない大量の漫画コレクション」など、「家族で使うモノ」ではなく「自分自身で楽しむモノ」「家族には内緒にしたいモノ」といった、「個」の切実なニーズがかなりの割合で存在していたのです。

これらは、事前のインタビューでは一切出てこなかった内容でした。
なぜか?

「それ、人に言えますか?」ということです。

面と向かってのインタビューでは、よほど信頼関係がなければ、建前の話しか出てこない
相手がどれだけ気を許していても、「家族に隠しておきたい」というような話題は、表に出にくいのです。

見えないものを「見える化」する技術

この経験を通じて、私は一つの結論に至りました。

それは、「ニーズを聞く」のではなく、「ニーズを引き出す場面」を作ることが大切だということです。
その鍵が、「モックアップ(模擬的な提示)」という手法です。

倉庫業や作業請負業のように、目に見える製品を売っているわけではない業態では、特にこの技術が重要です。
無色透明な“スペース”や“作業”に対し、どんなベネフィットを得られるのかは、利用者のイメージに委ねられてしまう。

しかし、相手にイメージがなければ、有益な反応は得られない。
そうであるなら、こちらから「こういう使い方があります」「こういうふうに活用されると便利です」と、具体的なシーンを提示してあげるべきなのです。

これは何も、完成品を用意する必要はありません。
簡単な画像でも、動画でも、ストーリー仕立ての提案でもいい。
とにかく、“無形のサービスを見える化する”こと。

モックアップがコミュニケーションの速度を変える

実際、私が運営していたレンタル収納スペースでも、「プライベート空間で趣味を楽しむ人」のイメージ画像を作成し、ホームページや店頭に掲示しました。
すると、それを見た人たちの中から、「あ、こういう使い方できるんだ!」という反応が返ってくるようになり、問い合わせ数が急増しました。

これはまさに、相手に“問いを投げる”のではなく、“想像のきっかけ”を提示するという方法が、どれだけ有効かを示す実例です。

言葉だけでは引き出せないニーズを、視覚的な提示や模擬体験によって引き出す。
これは、新サービス開発に取り組むうえで欠かせないスキルだと実感しています。

表面的なニーズの背後にある“本質”を捉えるには

顧客は「言葉」でニーズを語ってくれるとは限りません。
とくに、まだ世の中に存在していない新しいサービスに対しては、何を期待すればいいのかすら分からないのです。

だからこそ、“まだ存在しない未来の価値”を、こちらから仮に形にして見せることが大事になります。
それが、「モックアップ」の本質であり、表面的なニーズの奥にある本音を拾うための、唯一にして最も実践的な手段なのです。

もし、あなたのサービスが「何となく伝わらない」「ピンときてもらえない」と感じているなら、ぜひ一度、「見せ方」を変えてみてください。
その瞬間から、顧客とのコミュニケーション速度が、目に見えて変わってくるはずです。

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