中小企業の新規事業でやってはいけない間違った考え方

~“最先端”より“足元”にこそ、勝機がある~

中小企業が新規事業に取り組むとき、よくある間違いがあります。
それは、「時代に乗り遅れたくない」「将来の成長分野に挑戦したい」という焦りから、自社の得意とすることから離れてしまうことです。

確かに、新しい分野には魅力があります。AI、デジタル、脱炭素、SaaS…。メディアをにぎわせるキーワードに心を惹かれるのは当然です。

でも、ちょっと待ってください。
新規事業の成功確率は10%~30%程度と言われている世界です。大企業ならその失敗を吸収できるかもしれません。
しかし、中小企業にとっては、失敗が即、会社の屋台骨を揺るがしかねないリスクを意味します。


私自身も、かつてこの罠にはまりました。

私は、ある地方の倉庫会社に身を置きながら、新しい収益源をつくろうと考えました。
そして、時代の波に乗ろうと、パートナーと組んでデータ処理ビジネスに踏み出したのです。

スタート当初は、希望にあふれていました。
「これはいける」――心の中でそう思っていました。
倉庫業のような労働集約的な産業から、もっとスケーラブルで、効率の良いビジネスモデルに脱皮できると思っていたのです。

しかし、現実は甘くありませんでした。

ITの知見がない私たちは、ベンダーに頼るしかない開発・保守。
営業もゼロから開拓。
倉庫という拠点も、作業スタッフという現場力も、一切活きない。

青い鳥を追いかけて、手元の資産を見捨てた結果――
待っていたのは、苦労と焦燥感、そして成果の出ない日々でした。


中小企業は、ホームランを狙ってはいけない

大企業の新規事業は「ホームラン狙い」でいい。
外れても、次がある。撤退しても企業はびくともしない。

しかし、中小企業は違います。
凡打=経営の危機です。

だからこそ、狙うべきは「シングルヒット」。
確実に塁に出て、小さな得点を積み重ねていくマシンガン打線のような戦略が必要です。

そのために必要なこと――
それは、自社の保有するリソースを軸に置くこと。


足元にこそ、他社にはない価値がある

倉庫業であれば、倉庫という“場所”があります。
作業請負業であれば、“作業をする人”という人的資源があります。
現場には、長年培った“作業構築力”や“作業管理のノウハウ”もあるでしょう。
また、既存顧客との間には、“信頼関係”という無形資産も存在するはずです。

これらは、金を出してすぐに手に入るものではありません。
AIや最新テクノロジーでは代替できない“人の力”や“関係性”の積み重ねが、そこにはあるのです。

この「足元の強み」こそが、倉庫業・作業請負業にとっての最大の武器。
この武器を手放して、時流の最先端に飛び込んでも、立ち向かえる保証はありません。


テコにすべきは、「すでに持っているもの」

新規事業とは、本来「未来の売上を生む手段」であり、同時に「経営の自由を手にするための戦略」です。
その目的を忘れ、「話題性」や「先進性」に飛びついてしまうと、手段が目的化し、方向性を見失います。

重要なのは、自社が今、すでに持っているリソースや強みを活かした方向で新しい価値をつくることです。

● 自社の現場力を活かして、より高度な作業請負に踏み出す
● 既存顧客の周辺ニーズに応える形でサービス領域を拡大する
● 倉庫や設備を活かして、他業種と連携した複合サービスを提供する

このように、「足元の強み」をテコにすれば、高い成功確率で成果を生み出せます。
ホームランは生まれなくとも、凡打を減らし、地に足のついた新規事業にすることができます。


最後に――新規事業の目的を、もう一度見つめなおす

新規事業は、キラキラしたアイデアを実現するためのものではありません。
ましてや「業界の最先端に追いつく」ことが目的でもありません。

自社らしく勝てる場所を見つけ、経営の安定と自由を取り戻すこと。
それが、中小企業にとっての新規事業の本質です。

どうか、今あるものを見つめなおしてください。
そして、その延長線上にこそ、確かな未来があることを忘れないでください。

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