新規事業を失敗させないために──「ニーズの見極め」で押さえておきたい5つのポイント

「失敗したくて失敗する人」なんて、いないんですけどね
あなたも、こんなことを感じたことはありませんか?
「このサービス、いいと思ったのに…なぜ売れないんだろう?」
「事前にニーズを聞いていたのに、いざ提案したら反応が悪い…」
これは、かつての私が何度も味わった悔しさです。
私は現在、中小企業、特に倉庫業・作業請負業の経営者の方々と一緒に、新規事業や新サービスの立ち上げをサポートする立場にいますが、ここまで来るまでに何度も“痛い思い”をしてきました。
今日は、そんな私の「失敗談」を元に、新規事業を立ち上げるときに避けて通れない、「ニーズの見極め方」について、あなたにだけお話ししたいと思います。
「ニーズはある」と思ったのに、全然売れなかった話
これは、私が社内ベンチャーのような形で、新しいサービスを立ち上げたときの話です。
当時は、内部統制の強化が大きなテーマになっていた時期でした。
不正会計やデータ改ざんがニュースで大きく取り上げられ、「会計データの透明性を高めろ」という空気が世の中に流れていたわけです。
そこで私は、「会計データ、その証憑となる文書の画像、証憑原本をひもづけて検索できるクラウドサービス」を考えたのです。
企業の財務部門や経理部門にとって、「何かあったときにすぐ証憑書類が出てくる」──これはニーズがあるに違いない、私はそう確信していました。
実際に、ヒアリングをした多くの企業からは「これは便利そうですね!」という言葉をもらいました。
その声に背中を押され、私は大規模な開発投資を引き出してサービス構築に踏み出しました。
ですが──
完成して「さあ売り込みだ」とヒアリング先を訪ねてみると、彼らはこう言ったのです。
「便利だと思うんだけど、コストかけてまで導入するほどではないかな」
耳を疑いました。
「いいね」と言ってくれたはずの会社が、誰も買ってくれない。
私は、自分の甘さを思い知り、青ざめました。
「あったらいい」と「ないと困る」は、天と地ほど違う
このとき私は痛感しました。
「ニーズがある」という言葉には、落とし穴があるということを。
ヒアリングの段階で「それ、いいですね」と言われると、つい浮かれてしまいませんか?
でも、その「いいですね」が意味するのは、たいてい「別に困ってはいないけど、あったら便利そうだね」という程度のものなんです。
つまり、それは“お金を払ってでも解決したいニーズ”ではなかったわけです。
これが、新規事業や新サービスの失敗で最も多いパターンです。
「ニーズがあると思ったけど、売れなかった」というやつです。
私たちが見極めなければならないのは、**「そのニーズは、いくら払ってでも解決したいニーズか?」**という問いなんです。
「それ、あったら便利ですね」を信じてはいけない
たとえば、あなたが倉庫業の経営者だとしましょう。
ある業者がやってきて、「温度・湿度管理の書類保管サービス」を提案してきたら、どう感じますか?
「そりゃ、あるに越したことはないよね」
たぶん、そう言いますよね。
でも──「では、追加コストが月3万円かかります」と言われたら、どうですか?
たぶん、「いや、それなら要らないよ」と言いたくなる。
一方で、もしその書類が永年保存が必要な重要文書だったら…?
あるいは、技術図面や設計書で、消えてしまったら再現できないものだったら…?
それなら、「多少お金がかかっても、ちゃんと保管しておきたい」と思うかもしれません。
つまり、同じ提案でも、
- 相手にとっての重要度
- 相手の状況
- コスト負担感
によって、「必要かどうか」は全然変わってくるわけです。
これを無視して、「みんな『いいね』って言ってたから」と走り出すと、私のように転びます。
本音を引き出す、たった一つの質問
じゃあ、どうやって「本音」を引き出せばいいのでしょうか?
私が失敗の末にたどり着いた答えは、これです。
「それって、いくらまでだったらお金出しますか?」
この質問を投げかけるだけで、驚くほど反応が変わります。
「5千円くらいなら…」とか「いや、うちはそんなの無理だね」とか、
価格と価値を天秤にかけた本音の反応が返ってくるんですよね。
この質問が大切なのは、「金銭を支払うリアルなイメージ」を相手に描かせることができるからです。
逆に、これを聞かずに「なるほど、ニーズはあるな」と早合点してしまうと、
開発したあとで「誰も買わないサービス」ができてしまうわけです。
「熱さ」だけでは乗り切れない。冷静さが必要です
新規事業に挑戦するとき、情熱は絶対に必要です。
あなたにも、絶対に「こういうサービスを世に出したい」という思いがあるはずです。
でも、その熱さだけで突っ走ってしまうと、判断を誤ります。
人は、自分が信じたい言葉を過大評価し、耳の痛い意見を軽視する傾向があります。
特に、事業アイデアに夢中になっているときは、「見たいものしか見えない」状態になってしまうんです。
だからこそ、冷静に、こんな問いを繰り返す必要があります。
「このニーズは、本当に“お金を払ってでも解決したいニーズ”なのか?」
そして、「いくらなら払うのか?」を聞いてみてください。
このワンクッションが、成功と失敗を分ける大きなポイントになります。
まとめ:ニーズを見極める5つのポイント
最後に、今回の話を5つの「見極めポイント」としてまとめておきましょう。
- 「いいね」の声だけを信じない
- それは「あると便利」程度の反応かもしれない
- 「ないと困る」状態かどうかを探る
- その課題を放っておいたら、相手は本当に困るのか?
- 「いくらなら払えるか?」を聞く
- 金銭を伴う判断で、初めて本音が見える
- 情熱に頼りすぎない
- 熱い心と冷静な頭で進める
- ニーズは“相対的なもの”と理解する
- 置かれた状況によって価値は変わる
あなたの会社にも、きっと眠っているサービスのタネがあります。
それを本当に必要としている人に、適切な価値で届けることができれば、それは大きな武器になります。
その第一歩は、「そのニーズ、本当に“金を払ってでも”解決したいですか?」と、自分にも、相手にも問いかけることからです。
失敗を恐れるのではなく、「失敗を未然に防ぐ仕組み」を、ぜひ取り入れてくださいね。