新規事業で失敗しないためのポイントとは? ~撤退基準の埋め込みの重要性~

「新しいことを始める」は、簡単ではない
あなたも感じていませんか?
「いまのままの事業では頭打ちだ」「このままでは先が見えない」__
だからこそ、新規事業や新サービスに挑戦しようとするのは、ごく自然な流れです。
実際、多くの倉庫業や作業請負業の経営者が、そうした決断をしています。
でも、ここでひとつ、非常に大事な問いがあります。
「その新規事業を撤退する条件は?」
そう聞かれて、即答できる方は少ないのではないでしょうか。
なぜ、途中でやめる決断が難しいのか?
実は、新しい事業を始める以上に難しいのが、「やめる」ことなんです。
始めたばかりの取り組みは、軌道に乗るまで時間がかかり、粘り強く取り組む姿勢が求められるのは言うまでもありません。
でも、新しい取組みが「間違っていた」とわかったとき、あなたの会社はすぐに引き返すことができますか?
それができない企業が、たくさんあります。
なぜなら、人は自分のかけた時間や労力が否定されることを、本能的に嫌うからです。
人は、自分が過ごした青春時代が無駄だったと分かれば、絶望に陥ることになります。
だから、時間と労力を費やしたものを「止める」「否定する」勇気がもてない。
何とかしようと必死で努力することは大事だし、それで経営が成り立っているのも事実。
だからこそ、頭によぎるのは-
「ここまでやってきたのに、やめるなんてもったいない」 「せっかく社員を巻き込んだのに、彼らに申し訳ない」
こういう気持ちが頭をよぎって、判断が鈍ってしまう。
その結果、気づいたときには引き返せないほど深みにハマってしまっている……
そんな経験、あなたの会社にもあるのではないでしょうか。
失敗したときに速やかに引き返す力こそが、真の経営力
新規事業で失敗しないためのポイント、それは「成功確率を上げること」ではなく、「失敗に気づいたときに速やかに撤退すること」です。
ちょっと冷たい言い方に聞こえるかもしれませんが、これは事実です。
どんなに綿密に計画を立てても、実際にやってみないとわからないことだらけです。
野球でたとえてみましょう。一流バッターの証は、打率 3割。それでも7割は失敗しているわけです。
新規事業・新サービスも同じで、常に7割は凡打に終わる可能性の方が高いわけです。
凡打に終わったら、未練をもって一塁ベースにしがみつくのではなく、ベンチに戻って次の打席を待てばいいわけです。
「撤退基準」を決めておくことの重要性
とはいえ、具体的にはどうすればいいのか?
答えはシンプルです。
事業を始めるときに、あらかじめ「ここまで来ても成果が出なかったらやめる」という撤退基準を明確に決めておくことです。
・投資総額はどこまでにするのか
・期間はいつまでか
・どのKPIに到達しなければ中止するのか
・どのタイミングで振返りをするのか
これらを最初に決めて、社員や関係者にも共有しておく。
そうすれば、いざというときに「誰か」の主観的な判断ではなく、「計画」という客観的な判断になり冷静に対応できます。
これをやっておかないと、感情に流された判断になりがちなんですよね。「〇〇専務に否定された」「〇〇社長は分かってくれない」とか。
経営者にしかできない決断があります
新規事業ばかりを長年担当してきた立場から言うと、 新規事業を止める判断を、現場の社員に期待するのは酷です。
なぜなら、彼らは真面目に取り組んでいるからこそ、「社長の肝いりだから」と何とかして「ならぬもの」に必死で取り組むからです。
倉庫業や作業請負業の社員は真面目なので、この傾向がとくに強いと思った方がよいでしょう。
その結果、どこかで「これは無理だな」と頭では分かっていても、表には出さずに「社長のために」我慢して努力を続けてしまう。
そして、そんな社員を周囲が冷ややかに見る……。
「俺たちが稼いだカネを、あいつらが浪費してるんじゃないか」
そんな空気が蔓延してしまったら、組織は間違いなく崩れていきます。
だからこそ、新規事業を止める判断は経営者が率先して行うべきなんです。
好奇心は大事、でも無秩序な拡大は危険
経営者は、いつの時代にも学習意欲が高くて、知的好奇心が強い人が多いですよね。
この記事を読んでいるあなたも「面白そう」と思ったら、まずやってみるタイプなのではないでしょうか。
その行動力こそが会社を動かしているのも事実。 でも、社員を巻き込む以上は、その責任を最後まで持つ必要もあります。
古今東西、戦において深追いしたことで壊滅した例は枚挙にいとまがありません。
先日、仕事で長野県上田市を訪れましたが、戦国時代の第二次上田合戦でも、徳川秀忠が中山道を外れて上田城攻めに深追いしなければ、関ヶ原の戦いに遅参することはなかったかもしれません。
無秩序な拡散がもたらすのは、組織の混乱と信頼の喪失です。
だからこそ、「始める前に終わり方を決めておく」ことが、経営の質を高める重要なポイントなんです。
新規事業に必要なのは「結果」よりも「経験」
ここまで読んで、こう思った方もいるかもしれません。 「でも、撤退したら失敗じゃないか?」と。
でも、それは違います。
新規事業は分からないことが多いのです。
だから、新規事業に求められることは、何よりも経験値の積み重ねです。
撤退することで得られる知見やノウハウは、次のチャレンジに必ず活きてきます。
プロ野球でも、1打席目よりも2打席目以降の方が打率が高くなるというデータがあります。
凡打に終わってベンチに戻っても、相手投手の球種や配球が分かれば良く、すべてが水の泡になるわけではないんです。
むしろ、その判断が会社と社員を救い、次の打席で未来につながる可能性を広げてくれるわけです。
最後に:未来を拓くために、今こそ撤退ラインを定めよう
新規事業で失敗しないためのポイントは、成功だけを追いかけるのではなく、「終わり方」を決めておくことです。
・始める前に撤退ラインを決めておく
・社員に期待しすぎず、経営者が責任を持つ
・撤退は恥ではなく、経験値の獲得を通じた未来への投資
この3つを押さえておくだけで、新規事業の成功確率は格段に上がるはずです。
いま、あなたの会社で何か新しいことにチャレンジしている最中なら。 もしくは、これから始めようとしているなら。
ぜひこの内容を参考にしていただき、冷静で、強い意思を持った一歩を踏み出してみてくださいね。